野茂に米倉先輩の話を向けると、表情がにわかに明るくなった。
「今の僕があるのは、たくさんの方のお世話になっているからですが、米倉さんにはどんなに助けていただいたかわかりません」と、言葉に力がこもった。
プロ野球の世界に入った今でも、心に残っている言葉は、
「お前の野球は、他の人から見たら変わっているところがある。
フォームが変やと言われることもあるだろう。
でも、自分が信じていることは信念を持って貫き通すことが必要だ。
一本筋を通したら、それは曲げるなよ」というものです。
この一言のおかげで今のピッチングがあるんですからね。
これは、以前雑誌に掲載された野茂英雄のインタビュー記事から引用させていただいた。
社会人の先輩に対する感謝を心から語っているものである。
私が好きな野茂英雄のエピソードの一つである。
野茂英雄という原石を育て磨き上げたのは、彼を理解する周りの大人達や仲間であった。
彼は、周囲の人たちへの感謝を忘れない。
体格が大きく無口で、一生懸命黙々と練習をこなす彼を見て、周りの大人たちも何か秘められたものを感じ取ったのかもしれない。
もしも、周りの権力ある大人たちが、「そんなフォームはダメだ」などと圧力をかけていたら、今の野茂英雄はいなかっただろう。型にはまった環境では、彼のような傑出した才能を発揮することは難しかったかもしれない。
よく「周りの環境や人間関係が人格をつくっていく」といわれる。
ただ、人間のもつキャラクターや魅力が、周りの環境を変えていくこともある。
野茂英雄は、周囲の人たちに愛され薫陶を受けながら、精一杯力を尽くし、偉業への道を一歩ずつ歩いていった男である。
そして、自分のネームバリューがとほうもなく大きなものに変わっても、彼は若い頃の自分を育ててくれた人たちへの感謝を決して忘れず、行動し続けていく。
私はそんな彼を見ていると、心がジーンとしてくるのだ。
もうひとつ心に残る記事を引用させていただく。
女優の冨士眞奈美さんが雑誌のインタビューで次のように語っている。
言葉は少ないけれど、一つも嘘がない。誠実で、自分を必要としてくれるところに行く。理想の男の像を見るんじゃないでしょうか。
引退を表明したときに、「悔いが残る」っていう言葉があったけれど、すごいなあと思った。あんなこと言った人いないのよね。
大選手って、思い残すことはありませんと目がうるんだりするんだけど、そういう感情的なところがいっさいなくて、悔いが残る。
ほんとうのことしか言わない人なんですね。
振り返ると、全然、行動の軸がぶれていない。だからいいんです。
野茂さんのように行動がシンプルでぶれない男の人なら、道を切り拓こうとあちこち行ってしまっても、女の人は待つの。待つのは平気なの。
このインタビューを見て、私は冨士さんはとてもステキな方だと思えた。
そして野茂英雄という人間をとてもよく理解してくれているのが伝わってくる。
私は野茂さんじゃないけど、「ありがとう」と思ってしまった。
野茂英雄の魅力がつまった言葉だと感じる。
彼は無口だけど、言葉に真実がある。嘘がない。正直だ。
だから、仲間に信頼されるのだろう。
そして、言葉よりも行動で表現しようとする人だ。
それは現役当時の彼を見るとよく分かる。
彼は多くを語ろうとしなかったが、「全てはグラウンドで投げている姿を見てくれればわかる」と背中が語っていたように思える。
最後に、印象に残った雑誌での特集記事を引用させていただく。
彼は借り物の言葉を発しなかった。
誰かに言われた言葉でなく、自分の頭から出てくる言葉で語ってくれた。
その発言は常に、「こう思う」という主体的なものであり、「こう思われる」「こう見られる」と言った他人の見方を気にしたものではなかった。
実に気持ちのよいインタビューだったが、それも彼自身が自分の生き方に自信を持っている証だと感じた。
高校時代のチームメイトの話題になったとき、
「まあ、僕とみんなは一緒だと思います。僕の同級生は高卒後に就職した会社でずっと頑張ってるんですよ。僕も同じです。僕も来季クビにならないように今頑張ってるんです。同じ場所で頑張っているということで一緒なんです。それができるのも3年間一緒にきつい練習に耐えたからじゃないですか」
と気負いも照れもなく、実に率直に語る野茂英雄を見て、(この人は本気だ)と感じた。一点の曇りもない本心なのだ。
なんて涼やかで正直な人だろうか。
私はいつまでも野茂英雄という人の存在をあなたに忘れてほしくない。
どれだけ逆境があろうとも、つらいことがあったとしても、人間はこのように生きていくことが出来るのだ。
確かに野茂英雄という人間は、傑出した存在に見えるかもしれない。
しかし、おそらく彼自身は、自分の思いや信念に率直に従おうというシンプルな生き方をしているだけなのだろう。
それも感謝の気持ちを忘れず、大切な人に優しく。
野茂英雄の歩んできた道、これから歩んでいく道は、彼の選択の結晶なのだ。
あなたも、悩んだり苦しむことがあったとしたら、どうか野茂英雄の背中を思い出して欲しい。
(引用元:Number PLUS January 2009、Number714)
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sex telefony (金曜日, 17 11月 2017 20:52)
niepostanie
wróżka e-mail (金曜日, 17 11月 2017 22:32)
idared